最高裁判所第三小法廷 昭和43年(オ)763号 判決 1969年12月02日
上告人
地頭岩吉
代理人
中本光夫
井出正敏
井出正光
被上告人
香取開拓農業協同組合
代理人
直野喜光
青戸辰午
主文
原判決を破棄し、本件を広島高等裁判所松江支部に差し戻す。
理由
上告代理人中本光夫、同井出正敏、同井出正光の上告理由について。
原審の確定する事実によれば、本件土地、すなわち、鳥取県西伯郡大山町大山字上野原一四四番原野二二六、115.70平方メートル(以下「一四四番原野」という。)、同所一四五番山林248,925.61平方メートル(以下「一四五番山林」という。)は、もと上告人の所有であり、同所一四六番原野433,504.13平方メートル(以下「一四六番原野」という。)、同所一四七番原野696,198.34平方メートル(以下「一四七番原野」という。)は、もと訴外大村甚三郎の所有であつたところ、右一四四番ないし一四七番の各土地は、自作農創設特別措置法(以下「自創法」という。)三〇条一項一号の規定により昭和二二年七月二日および同年一〇月二日国に買収され、一四五番山林上の黒松は、同年一〇月二日、一四六番原野上の黒松は、同年七月二日自創法の規定に基づいて各所有者から国に買収されたものであるが、右買収当時、右一四四番ないし一四七番の各土地上に黒松、雑木等が生立していたというのである。
ところで、土地上に生立する樹木は、原則として、地盤たる土地の構成部分として一個の所有権の客体をなすものであり、それが生立する状態においては、地盤たる土地と一体として取引の対象となり、地盤の所有権が移転するときは、地上の樹木もこれと一体をなすものとして地盤とともにその所有権が移転するものであるが、右土地上の樹木が立木に関する法律(明治四二年法律第二二号。以下「立木に関する法律」という。)の適用を受けるものである場合またはいわゆる明認方法が講ぜられているものである場合などにおいては、これらの樹木は、土地とは独立して取引の対象となり、独立の所有権の客体となるものであることはいうまでもないが、かりに、土地上の樹木が右のように取引の対象たりうべきものでないとしても、右樹木自体が独立した取引価値のあるものであるときは、これを敷地たる土地とは独立の物件として取り扱いうるものと解すべきである。
そうして、この理は、自創法三〇条一項一号により国が未墾地を買収する場合の当該未墾地と地上に生立する樹木との関係についても異なるところはない。すなわち、国が同法条によつて未墾地を買収する場合には、当該地上に生立する樹木のうち立木に関する法律の適用を受けるものまたはいわゆる明認方法がほどこされているものなど本来独立して取引の対象となりうべきものについてこれを買収するためには、同法三〇条一項四号にいう「立木」として同項の規定に基づいて土地とは独立して買収すべきものであり、また、右の樹木であつても未墾地開発後の利用上の妨げとなるものは、同法三三条一項によつて、国はその所有者に対し右樹木の収去を求めることができるものであつて、いずれにしても、その敷地たる土地買収の効果が当然には地上の樹木に及ぶものではない。これに対して、立木に関する法律の適用も受けず、いわゆる明認方法もほどこされていない樹木については、それが独立した取引価値のあるものである場合には、国はその敷地たる未墾地を買収することにより地上の樹木をもその対価を加算して土地と共にその所有権を取得することができるし、また他方、当該樹木が未墾地開発後の利用上不必要なものであるような場合には、国は未墾地買収の対象より右樹木を除外して敷地のみを買収することができるものというべきである。そして、本件買収当時においては、自創法三一条二項、同法施行令二五条により、独立して買収の対象とならない地上樹木の価格を未墾地買収の対価中に算定する方法が定められていたのであるから、国が未墾地の買収により地上の樹木の所有権をも取得したとするためには、当該買収対価中に右地上樹木の価格が算定されていることを要し、もしも、地上樹木が相当の価格を有するにかかわらず、その買収対価中に右地上樹木の価格が算定されていないような場合には、土地買収処分の効力は右樹木に及ばないものと解すべきである。けだし、もし右樹木に対しても買収処分の効力が及ぶものと解するときは、右樹木に対しては正当の補償なくしてその所有権を侵すことになるのであり、また、前掲説示のごとく国はその欲するところにより右のような地上の樹木を買収の対象から除外することができるのであるから、右のように買収対価中に樹木の価格が算定されていない場合には、右樹木は買収の対象より除外されたものと解するのが相当であり、たんに買収対価の算定を誤つたものと解すべきものではないのである。
本件について、原審の確定する事実によれば、本件土地のうち地上の黒松を別個に買収された一四五番山林、一四六番原野も、そうでない一四四番原野、一四七番原野も、いずれも一反歩当り金三〇円二四銭の同額で国に買収され、前掲説示のごとく右各地上には当時黒松、赤松、雑木等が生立していたものであるが、そのうち独立して買収された一四五番山林上の黒松立木337.95石は一石当り金二〇円八〇銭、一四六番原野上の黒松立木12,087.23石は一石当り金二〇円八二銭で買収されたというのである。原審は、右事実を確定したうえ、一四四番原野、一四七番原野については、その土地上の樹木(竹木)を一四五番山林、一四六番原野については、黒松以外の樹木(竹木)をそれぞれ含めた土地の価格を算定し買収対価としたものであると解するのが相当であるとする。しかし、このように土地買収の対価について、その買収単価が黒松を別個に買収した部分も、そうでない部分も同額であるということは、たとえば、土地自体の価格についてみて一四四番原野、一四七番原野のほうが一四五番山林、一四六番原野に比べて安価であるとか、あるいは、一四四番原野および一四七番原野の黒松を含めた地上樹木の価格と一四五番山林および一四六番原野の黒松を除いた地上樹木の価格とがひとしい状態にあつたなどの特別の事情の存しないかぎり、一四四番原野、一四七番原野の買収価格中には地上の黒松、赤松、雑木などの独立して取引価値のある樹木の価格を加算していないものと認めるのが論理則、経験則に合するところである。ところが、原審の説示からは右の特別の事情はなんらうかがわれないのみならず、かえつて本件四筆の土地は隣接したものであることがうかがわれないわけでもなく、このような場合に一四四番原野、一四七番原野の買収価格中にはその地上の黒松などの樹木の価格も加算されていたとする原審の認定は、論理則、経験則に違背するものであり、到底これを是認することはできない。したがつて、右事実を前提に一四四番原野および一四七番原野上の黒松、赤松、雑木などの樹木が右未墾地買収の効果としてその所有権が国に移転したものである旨の原審の判断は、自創法の適用を誤つたものであり、この点に関する論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、本件についてはなお右の特別の事情の有無について審理すべきであるから、これを原審に差し戻すべきものとする。
よつて、民訴法四〇七条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(関根小郷 田中二郎 松本正雄 下村三郎 飯村義美)